電話応対の決め手は「声の表情」への感性 “気働き”コミュニケーション術・電話編③
クレーム対応では「声の表情」に集中する
ひと昔前のことですが、公衆電話の前で受話器を握りペコペコと頭を下げている人をよく見かけました。今でも時おり携帯片手に“見えない”相手にお辞儀を繰り返している方がいます。中には、
「電話で相手が見えないのに、お辞儀なんかして……」
と、考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、その見方はぜひ改めていくべきだと思います。
電話でのやり取りとなると、どうしても声の出し方、話し方などテクニカルな面に関心が向きがちですが、決してそれだけではありません。見えない相手に頭を下げるような「気持ち」が、相手に伝わっていく――と、私は考えているのです。
相手に与える印象の55%は「表情・しぐさ」が占めると言われています(メラビアンの法則による。以下「声」=38%「言葉の内容」=7%)。対面でのコミュニケーションであれば、顔やしぐさを見れば、相手の状態や気持ちはある程度つかめますね。
たとえば顔色や表情の変化は、そのまま気持ちの変化と受け止められるでしょう。また、相手が「時計ばかり気にしている」のであれば、次の予定が迫っている。「何度もあくびをかみ殺している」となれば、あなたの話に興味なし! これらは、すでに経験されていることだと思います。
いっぽう電話の場合、手がかりは「声」だけです(同法則によると38%)。人の状態や気持ちはその「声の表情」に表れます。わずかな心の変化は、「声の表情」の変化として伝わってくるのです。
その瞬間をいかに的確にキャッチできるか――。これが電話でのコミュニケーションで最も大切なポイントなのです。
電話に限らず、コミュニケーションは瞬時の判断の連続です。中でも電話の場合、相手の「声の表情」の変化を瞬時にとらえ、判断することが重要になります。
たとえばクレームであれば、相手の気持ちがどこで穏やかになったか? あるいは、どこで余計に腹を立てることになったか? その理由は? など、これらを敏感に察知し素早く判断していくのです。
私がよく「相手の話にかぶせるように話すのではなく、まずはよく聞きなさい」とお話しするのも、相手の「声の表情」の変化を聞き逃さないようにするためなのです。
自分の思いを伝えるのも「声の表情」の役割
相手の状態や気持ちを「声の表情」でとらえ、瞬時に判断する――。電話を使ったコミュニケーションの大きなポイントです。同じように、自分の気持ちや思いを相手に届けるのも「声の表情」の役割。具体的にどのような点に注意すればよいのでしょう。
次の2つを比較してみてください。お客様から何らかの「用命」を受けた場面です。
1.「さようでございますか。かしこまりました」
2.「はい。わかりました」
この比較では、目上の人への正しい言葉づかいという点で、明らかに「1」に軍配が上がります。敬語のマニュアルにも書いてあるとおりです。
では、次の2つはいかがでしょう。大型プロジェクトの終盤。先方の担当者から「役員が直接話を聞きたいと言っている」というリクエストを伝えらえた場面をイメージしてみてください。
1.「承知いたしました。私が伺わせていただきます」(平然とした調子で)
2.「わかりました! 私が伺います」(交渉の経緯を振り返り、万感の思いを込めて)
先ほどと同様、敬語の理屈で言えば「1」なのでしょう。しかしこの場合、私は「2」でいいと思います。その人が「今すぐにでも飛んで行きたい!」という思いを込めた言葉であれば、相手にもその「気持ち」がしっかり伝わることでしょう。
この例のように多少幼稚な言い方であろうと、あまり美しいとは言えない“しゃがれた”声であろうと、そこに自分の気持ちをどれだけ乗せられるか――が、大事なのです。正しい敬語の使い方から少々外れていたとしても、その人の思い、気持ちが込められているのであれば、私はその方がいいと思っています。
きれいな声を出す練習はしなくてもいいのです。その分、あなたの気持ち、万感の思いを「声の表情」に載せるコミュニケーションを続けてみてください。