顧客満足(CS)から顧客感動(CD)へ - “気働き”コミュニケーション術⑩

期待値を上回るのがプロの仕事

歌手の松山千春さんが、かつてインタビューに答えてこんなことを話していました。
「いい意味で観客の期待を裏切るのがプロ」
コンサートに集まった人たちが「今日の松山千春、このくらいかな?」と、思っているところで、「と、とんでもない! うわぁ~スゴイ!」と驚かせる。これがプロの仕事、と彼は言うのです。
 先ほど、キャビンアテンダント(CA)さんの仕事ぶりについてお話ししたところで「期待値」という言葉を使いましたが、松山千春さんのエピソードにも当てはまりますね。つまり、観客の「期待値」を上回ることがプロの仕事、というわけです。

 私たちがビジネスパーソンとして“プロ”の仕事をしようと思ったら、同じように相手の「期待値」を上回ることが必要。そのためには、まず相手の「期待値」がどのあたりにあるのかをつかみたいですね。さらにクレーム対応、価格を始めとするさまざまな交渉、接客や接遇などでは、「相手が具体的にどんなことを求めているのか」を察知することが欠かせません。
 たとえば航空機のビジネスクラスの乗客は、コールボタンを押すまでもなく「ほしい飲み物」が運ばれてくる――程度のサービスへの「期待値」を持っていることでしょう。加えて、サンドイッチを取り出した乗客(正確には、取り出そうとしている乗客ですね!)の「お茶がほしい」というリクエストの“先読み”が必要になるのです。
そのためには、たとえばアイコンタクトをしっかり取ること、相手の「声の表情」の変化を注意深く観察することなど、コミュニケーションのいわば基本動作が大切になってきます。そして何より大切なのは、「知ろうとする気持ち」であることは言うまでもありません。
これは「恋人の“本心”を知りたくて、いろいろなしぐさや言葉、行動に細かく気を配ること」と、基本的には同じですね。

 相手の「期待値」を上回ることがイコール「プロの仕事」という考え方は、日常の仕事の現場でもまったく同じです。先輩や上司のリクエストを“先読み”して、指示される前に行動を起こす――。このことによって、先輩、上司があなたに対して抱いている「期待値」(=この程度の能力だろう)を上回ることが可能なのです。こうした仕事ぶりは自ずとあなたの評価に結びついてくるはずです。

顧客感動(CD)は、こうして生まれる!

相手の「期待値」がどこにあるのかをいち早く察知して、それ以上のものを提供していけば、例外なく相手の方は「プラスのふれ合い」を感じてくださるでしょう。この「プラスのふれ合い」を届けることこそが、コミュニケーションの目的であると私は思います。その結果、相手は「満足」を超えて「感動」さえ覚える――と考えています。

 CS(customer satisfaction;顧客満足)という言葉はご存じかと思います。企業などが提供する商品やサービスによって、顧客がどの程度「満足」できたか――。という考え方、指標ですね。
 私は15年ほど前から、このCSを超え、CD(customer delight;顧客の感動!)を届けようというお話をしています。「満足」を超えて相手を「感動」の域にまで導くためには、その方の「期待値」を“大きく”超える必要があります。
 たとえば、あなたが「いつ行っても無愛想だ」というイメージを抱きながら役所へ出向いたとしましょう。この場合、「期待値」はあまり高いとは言えないですね。ところがその役所で、(とても役所とは思えないような!)良いサービスを提供されたとします。あなたの「期待値」は良い方向へ“大きく”裏切られ、「プラスのふれ合い」に満足を感じ、さらに感動さえ覚えるのです。これがCD(customer delight;顧客の感動!)です。

 CDは次の手順で、どこでも誰にでも“起こす”ことができます。
1.相手の「期待値」を把握する。
2.その「期待値」を大きく超える(上回る)サービスを提供~「プラスのふれ合い」を届ける。
3.相手は「満足」を超え「感動」を覚える。
――いかがでしょう。さっそく今日からあなたの職場で試してみませんか?