人の成長を楽しむ

昨年まで上海に住んでいた私は、先月末から数日間用事があって再びこの街を訪れました。

今回以前通っていた美容院で美容師のN君にカットしてもらうという目的がありました。

異国の地でお気に入りの美容師を見つけるというのは非常に重要で、私は彼に出会ってから髪型をどうするか悩むことが一切なくなりました。

それというのもそれ以前は言葉の問題やお互いのセンスの違いより思った通りの髪型にならなかったり、前髪をまるで罰ゲームのようにとんでもなく短くされた経験があったからです。

N君は今年で28歳、初めて会った時は24歳でした。

その当時はお店の中でも新しいスタッフで、ちょっとほころびたTシャツを着ていましたが、明るく屈託のない笑顔、言葉の壁をものともせず外国人の私とコミュニケーションしようとする積極性を気に入りました。

技術も確かでイメージ通りにカットされた翌日周りから「すごく似合ってるね」「どこで切ったの?」と評判が良かったのです。

次第に「チャイナ服を着るから1930年代のイメージで」とか「和服に合った髪型にして」など私からの要求は段々と高くなりましたが、しっかりとそれに答えてくれるN君でした。

徐々に彼の評価は上がりお店のNo.3になったと思ったら、昨年はついに最高級美容師に昇格したと嬉しそうに語ってくれました。

そんなN君に会いたくてお店を訪ねたところ、彼はニコニコ笑って私を迎えてくれました。

「久しぶりN君」

「いつ上海に来たの?」

「3日前。でも明日日本に帰るんだ」

・・・などと話しているうちに彼は私に「プレゼント」と言って赤いチョコレートの堤を手渡しました。

「これはもしかして・・」

そう、上海では結婚すると赤いチョコレートの包みを周囲の人に配る習慣があったのです。

思ったとおりN君は4日前に結婚式を挙げたばかりで、更に7月にはパパになるそうです。

「おめでとう、私も嬉しいよ。」

よく見るとN君は以前とは違いパリッとした白いシャツと黒のパンツを身につけ、もらった名刺には「総責任者」の文字が。

田舎から出てきて美容の道に進み、10人一部屋のせまい寮生活を耐え、正月前には母親に会えることを楽しみにしていたあのN君は立派に出世して結婚してついに父親になるのか。

今まで応援してきた私は心から嬉しく思い、中国語で知っている限りのお祝いの言葉を彼に送りました。

そして素敵にセットされたヘアスタイルでお店を出た後、道端で「紅包」と呼ばれる真っ赤なご祝儀袋を買い、少し多いかなと思う位のお祝いのお金を包んで彼に渡しました。

日中関係色々あるけど、日本を嫌いにならないでね、という思いと共に人の成長を見られるというのは本当に幸せだなということを実感した旅でした。

K.K