相手の自尊心を大切にして話す “気働き”コミュニケーション術⑯
自尊心を傷つけられれば、どんな話も耳に入らない
先日、公立小学校の主事さん(用務主事)の研修に呼んでいただいた際に、「教員になったばかりの先生と時々ぶつかってしまう」という“お悩み”を伺いました。
着任してまだ日の浅い、若い先生ですから、おそらく人一倍“張り切って”いらっしゃるのでしょう。命令口調で、
「主事さん、これをこうしておいてくれなきゃ困るよ!」
というような言い方をされることがあるのだそうです。ところが、これでは主事さんの自尊心が許しません。
「今までそんなことしてこなかったんだから、先生、このやり方のままでいいんだよ!」
と、ついつい強く出てしまうというのです。
すべてのやり取りについて正確に把握できてはいないのですが、この部分だけを見れば、まさに“売り言葉に買い言葉”。相手の立場やこれまでの経緯などを考えず、お互いに感情をぶつけ合っているのです。“プラスのふれ合い”を目的とするコミュニケーション本来の姿とは対極にある状況といえるでしょう。普通このままでは、何を言っても耳に入りませんね。
こうした状況を解決するためには、まず「お互いの自尊心を大切にする」というスタンスに立つ必要があるのです。この場合であれば、年長者であり職場の先輩でもある主事さんのほうが、こんな話し方をしてみてはいかがでしょう。
「先生、わかりました。でもね、やり方を変えるにはそれなりの時間もかかるから、1カ月くらいで先生の言うやり方に変えてみる。途中で今までのやり方のほうがいいとなったら、また相談ということで……」
これならば“血気盛ん”な若い先生も、首を縦に振らざるを得ないでしょう。ポイントは、「先生、わかりました」のひと言ですね。こうして相手を受け入れたうえで「でもね」と、疑問点を投げかけるわけです。
ロジカル(論理的)なコミュニケーションとは?
この主事さんの“機転”は、一般に「Yes But法」と呼ばれる話の組み立て方です。最初から相手を否定してしまうのではなく、あくまでも肯定し、すべてを聞き入れたうえで「でも、こんな考え方もありますよね」と、こちらの意見、提案を述べる――というスタイル。商談などでもおなじみのコミュニケーション手法です。
新任の若い先生のように最初から否定されてしまえば、自尊心を傷つけられ、ますます感情的になってしまうでしょう。ところが、この方法ならば自分の言い分も十分に伝えることができるわけですから、最終的に自分の意見が否定されたとしても、「門前払い」された(自尊心が傷つけられた)という気持ちにはならないものです。
「ロジカル(論理的)なコミュニケーション」という言葉がありますが、要はこの例のように、
「主事さん、分かったよ。あなたの言うこと“腑に落ちた”(納得できた)よ!」
という結末に導くための気配り、気働きを指すのだと私は思います。
具体的には、ご紹介した「Yes But法」を始め、相手が受け取りやすいように数字を上手に使って説明する、視覚に訴えて伝える工夫をするなど、さまざまなアイデアが考えられますね。これらを通じて、相手の自尊心に配慮したコミュニケーションを展開していくのです。
こちらが相手の自尊心、立場を尊重したコミュニケーションを心がければ、相手もそのような受け止め方をしてくれます。ご記憶でしょうか? ここでも「鏡の法則」(★★ページ)が、しっかり機能するのです。