キャビンアテンダントの接遇はなぜ気持ちがいいのか? - “気働き”コミュニケーション術⑧
相手の期待値を上回ること
以前の記事で「気働き」の例として、キャビンアテンダントさん(CA)の“先読み”能力などについてお話ししました。
つい先日も、機内で持参したサンドイッチをバッグから出そうとゴソゴソやっていると、「水平飛行になりましたら、お飲物をお持ちいたします。最初にお持ちいたしますが、何がよろしいですか?」と、聞かれます。「気働きの3原則」どおりの先手必勝! 先に声をかけてくれるからこそ気持ちがいいのですね。
その日は地方で3日間の研修を終えての帰路――。運よくビジネスクラスに空きがあり、座席の変更をお願いしました。
こういう場合、サービスに対する見る目、評価はより厳しくなるのが普通ですね。「余計にお金を払っているのだから、エコノミー以上のものがあって当たり前」と思うのが“人情”というもの。つまり「期待値」がより高くなるのです。
その「期待値」を上回るサービスと感じれば、人は深く満足する。逆に下回ってしまうと、クレームにつながってしまいます。次のような図式が成り立つのです。
サービス・商品 > 期待値 → 深い満足
サービス・商品 < 期待値 → 失望、場合によってはクレーム
JR九州の寝台列車「ななつ星」は、3泊4日で1人70万円。それでも2000人待ちだそうですね。車両もいい、サービスもいい、食事もいい。「期待値」以上の満足が返ってくると思うから、あの値段でも2000人もの人が待つわけでしょう。
気働きのプロであるCAさんは、そこのところを上手にわきまえているのです。基本は徹底した「先読み」ですね。どんなにいいサービスでも、相手が期待しているタイミングより遅れてしまっては感動につながりません。先ほどの「お飲物を最初にお持ちいたします」という気の利いたひと言も、サンドイッチを食べ始めてからでは、あまり「ありがたい」とは思えないわけです。
「私がこうしてほしいと思ったことが、なぜ分かったのだろう」というところにこそ“感度の芽”が潜んでいるのです。
ビジネスクラスの満足は座席の幅だけではない
「これだけ払ったのだから、よいサービスを受けて当たり前」という乗客を満足させるには、「期待値」を上回るサービスを提供する必要がある。このことは、見てきたとおりです。しかもそれを搭乗時から最後に出口で見送るところまで継続しなければ、乗客の不満につながってしまうこともあるわけですね。
「腰が痛いので、ブランケットを貸していただけますか」というと、もちろんすぐに持ってきてくれます。ここまでなら、私たちにもできそう(?)でしょうか。ところが、ここから先が「気働き」です。
まず、渡されたブランケットは1枚ではなくて3枚。1枚はひざ掛けに、2枚は小さくたたんで腰にという配慮です。加えて、
「もし足りないようでしたら、またお声をかけてください」
というひと言。CAさんのサービスが喜ばれるのは、まさにこうした行動だと思います。
気持ちよく笑顔でサービスを提供し、サービスを受けたほうも深い満足を得る――。これらは、いわば「プラスのふれ合い」ですね。人は誰でも心の根底で「プラスのふれ合い」(肯定的な働きかけ)を求めているのです。
期待値を上回るサービスを受けることによって、人は「プラスのふれ合い」を得て満足を感じます。CAさんのサービスの本質も、いかに「プラスのふれ合い」を発生させるのか――という、この一点にあるのだと思っています。
乗客が、「またこの航空会社を選ぼう」と思うのは、「プラスのふれ合い」を得られたから。「シートが広くてラクだから」だけではないのです。